the TOWER of IVORY

あなたたちの耳が長いのは、神の代わりに世界の声を聞くため

Kぽなど 2020年の30曲

2018年からはじめたKぽなどの1年の振り返り文章も今年で3回目です!

年末近くなってあの曲よかったこの曲も…あと何あったっけ...???とならないように11月からリストを作って書き始めたら昨年以上に長大になってしまったので、今年は目次をつけました。なお、巻末のおまけに今回記事で触れた30曲から最終的に漏れた50曲のリストも作ったので、そちらも参照ください。

 

 

・2020年の30曲(本編)

 

※凡例

 楽曲名は""、アルバム名は『』、その他(書籍名や番組名など)は「」で囲います。

 読みにくさを避けるため、文中の一部の人名において適宜アルファベットとカナを使い分けています。

 紹介する並びは順不同で、ランキングではありません。

 

 

1. Jang Yeeun "Barbie"

 


GOOD GIRL [6회] 장예은 - Barbie @세 번째 퀘스트 1R 200618 EP.6

 

チャン・イェウンはCUBE Entertainment所属、多国籍7人組グループCLCのメインラッパー。CLCは2015年にデビューしたもののあらゆるコンセプトをたらいまわしにされる中グループのスタイルが定まらず、2017年1月にリリースした"Hobgoblin(도깨비)"以降の強いEDMトラップ楽曲でのカムバックも、グループの成熟によるステップアップというよりは行き当たりばったりな事務所の戦略の産物かもしれません。

しかし結局活路はその道にあったことが、2019年1月発売のEP『No.1』収録の"NO"で証明されます。デビューから4年以上をかけての初音楽番組1位を獲得しましたが、この時The SHOWのMCを務めていたイェウンは、自らの手でメンバーへとトロフィーを渡し歓喜の涙を流すのでした。

 

とはいえ以降の約2年間、グループとしてはシングル3曲のみの散発的な活動に留まっており、イェウン自身はMnetのヒップホップリアリティ番組「Good Girl」で、Mnetを襲撃するアーティスト10人のうちの1人として出演します。ベテランや個性派揃いの10人の中にあって、初めての1人での舞台に戸惑う場面が放映されましたが、その分イェウンの挿話はアーティストとしての個人的な成長という側面の強いストーリーが展開されており、共感しながら視聴しました。

 

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3次クエストの対「SHOW ME THE MONEY」チーム戦では、あえてソロ戦に立候補。「SHOW ME THE MONEY777」で時の人となった某ラッパーの覆面プロジェクト、マミソンとの対決になります(マミソンについては一応こういう書き方をしておきます…)。

マミソンのステージが人を食ったようなユーモラスな内容となることを警戒しながらも、立候補時点ですでに楽しい曲を作ることを構想していたイェウンはコンセプトを予定通りに考案。中間チェックでは萎縮のあまり歌がほとんど照れ笑いで終わってしまいメンバー達がしらけるシーンもありましたが、バービーらしく金髪にして望んだ本番では大きなミスなく披露し、落ち着いたトーンで自分なりに金稼ぎの思想を説いたマミソンを撃破します。

"Barbie"の曲調はポップなディスコファンクでダンスもキャッチーなものとなっており、相手チームのRhythm Powerボイビチグインも振り付けをその場でまねして踊る姿が映されるなど、イェウンの目論見どおりの楽しめるステージとなっていました。

 

ちなみにマミソン側には、助っ人として同事務所に所属するウォンシュタインが参加しています。彼は先週終幕を迎えたばかりの「SHOW ME THE MONEY9」のセミファイナルまで残る大活躍とそこでの残念な敗退が記憶に新しいですが、「Good Girl」では繊細なヴォーカルで特別審査員たちの注目を集めており、これをその後の大躍進の足がかりとしています。ウォンシュタインについてはFishermanの項で再度触れます。

 


GOOD GIRL [6회] 마미손 - 머니세레나데 (feat. 원슈타인, 김승민) @세 번째 퀘스트 1R 200618 EP.6

 

イェウンは、最終クエストのメンバー内バトルではKARDのチョン・ジウとの対決となります。高等ラッパー2で準優勝したイ・ロハンことRohannをゲストにして自身はラップを封印、抒情的な歌唱を見せることで新境地を拓きました。

 

最後に、個性的なメンバーの揃った「Good Girl」メイン出演者の中でも胸を打たれたのは、先頃レーベル解体したdaze aliveからシンガーソングライターのキム・サウォルらが所属するYour Summerに移籍したラッパー、SLEEQの姿でした。インターセクショナリティの視点からフェミニズムを学んでいるといい、忌憚なく自らの苦悩と変革への希望をリリックに表現するスタイルを当初から見せ、第1話ではそうした個性が他のメンバーとは調和しないのではないか...というような編集カットもありました。

しかし、最初は「合うのかな?」と語っていた少女時代ヒョヨンが常にSLEEQを信頼する発信をしていくようになったり、2次クエストのチーム戦ではラッパーのチタをして「SLEEQが誰かと組む姿を想像できなかったが、誰とでもいい音楽を作れる人だった」と言わしめました。そして、番組の番組内でも正反対の存在といわれてきたQueen WA$ABIIと作り上げた最終話でのステージで、「偏見をぶち壊し多様性を賛美する」ことをテーマに掲げて”Sorry for Winning”を歌い踊ったシーンは涙なしには見られませんでした。

 

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さらに余談となりますが、CLCが9月2日にリリースした最新曲"Hellicopter"ではイェウンがHere we go, here we go now...と繰り返すコーラス部分を歌います。そこで思い出したのは、SLEEQが「Good Girl」1話のクルー探索戦で歌ったジェンダーマイノリティーに捧げる曲、"Here I go"にも同様の展開があることでした。新人時代からSLEEQのラップを練習していたというイェウンが、改めてSLEEQへのリスペクトを込めてそのラインを書いたのかな…?と、個人的な想像をしています。

「Good Girl」でのSLEEQについては、いつか別個に記事を書けたらなと思っています。

 

 

2. fromis_9 "물고기(Mulgogi)"

 


프로미스나인 '물고기(Mulgogi)' Special Video

 

IZ*ONEと同じOff The Record Entertainment所属、2017年に放映されたMnetのサバイバル番組、「アイドル学校」で選抜された9人組グループ。昨年秋からさまざまな疑惑が暴かれていった末に制作陣が起訴され、11月の初公判で番組PDは票操作の容疑をおおむね認めているということです。こんな書きはじめ嫌すぎるが。

そんな事情もあり2019年6月のシングルアルバム『Fun Factory』以来、長いことリリースから遠ざかっていましたが、チャン・ギュリNetflixの人気ドラマ「サイコだから大丈夫」(6月20日~8月9日放映)に出演し好評を博すなかで9月16日にEP『My Little Society』でカムバックしました。EPのタイトルが良いよね…

5曲目に収録されている"물고기"はタイトル曲の"Feel Good"と同様ディスコファンクを基調としており、2018年10月のEP『From.9』収録の”Dancing Queen以降見られるようになったファンクの特徴を多分に含む楽曲路線の延長にあるともいえます。歌唱面でのキーパーソンであるソン・ハヨンイ・セロムの「ハロム」ケミが存分に個性を発揮しているため選びました。

 

ちなみに"Feel Good"の方は、ナイル・ロジャースが率いるChicが1979年に残し大定番のサンプリングソースとなったダンスクラシック、"Good Times"のギターカッティングリフを借用しています。

 


[fromis_9 - Feel Good(SECRET CODE)] Comeback Stage | M COUNTDOWN 200917 EP.682

 


Chic - Good Times (1978)

 

思えば、初期のぷろみは出自となった番組にふりかかった疑惑の目をよそに、迷いなく爆走していく姿を世の中に叩きつけていました。番組のミッションで披露し、のち9人で再録された"Miracle"やプレデビュー曲の"유리구두(Glass Shoes)"、実質デビュー曲の"To Heart"、2枚目のEPのB面曲”너를 따라, 너에게(Think of You)”といった一連の初期楽曲はいずれもその系譜を継ぐもので、聴いていて自然とこちらも歩幅が大きくなるような頼もしさがありました。

それは、ナタリーのKPOP対談記事でとある男性音楽家が語ったような「ロリ美少女の垢抜けない姿」などでは、決してなかったはずです。

 


프로미스나인 (fromis_9) – 너를 따라, 너에게 Recording Behind

 

それから2年を経て、脇目もふらずに爆走する時期は終わりました。逆風に吹きつけられながらもひとつだけの個性に辿りつくまでのぷろみの道のりの中で、タイトな楽曲を中心とした音楽的統一感のある『My Little Society』は、キャリアの1つのマイルストーンになったといえます。

 

 

3. Yerin Baek "Lovegame"

 


백예린(Yerin beak)-“Lovegame” live

 

ペク・イェリンは自身のレーベルBLUE VINYL所属のシンガーソングライター。 昨年の記事でも紹介したように、EP『Our love is great』を最後にJYP Entertainmentとの契約が終了して独立した後、年末には2枚組アルバム『Every letter I sent you.』をリリースしています。いずれの音源からも”Maybe It's Not Our Fault”、"Square(2017)"という音源チャート1位曲が生まれました。ちょうど1年のインターバルを置いて、12月10日に2年連続2枚目のフルアルバム『tellusaboutyourself』をリリースします。

これらのアルバムを通じて制作にかかわってきたのはプロデューサーの구름(Cloud)で、イェリンと共にバンドThe Volunteersとしても活動しています。3月のfnmnlでのインタビューを読んでも、『Our love is great』や今回の『tellus〜』でジャンル横断的な音楽アプローチが可能となったのは、やはりCloudの寄与するところが大きいようです。

 

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コンセプトスタイリングも話題に

 

昨年の『Every letter 〜』はこれまでの未発表曲がやはり目立っていて、それに沿った曲調でまとめられたある種の統一性がありましたが、『tellus〜』は表面的にはかなり多岐に渡ったアプローチをしていて、様々なジャンルを貪欲に取り入れています。

1曲目の"Lovegame"では、NAVER NOWでのリリースライブで見せた終盤ワウをふんだんに入れた挑発的なギターソロ(↑動画では3:04~)がこれまでの楽曲では聴かれなかった感性だし、リードトラックとなりMVも出た"0415"は浮遊感のあるdeep houseトラック。ラストは意表をつくUK Garage曲"Bubbles&Mushrooms"で終わる、といった具合です。また冒頭の"Lovegame"に関していえば、「そんなFxxkin´ boyやめときなよ」「You deserve something better」と確信を持って指さしてくれる歌にシスターフッド…となりました。

「HYPERBEAST KOREA」メディアではイェリン本人が作品解説をしていますが、Twitterでこれを訳してくださっている方がいたのでここで紹介します。

 

 

また、NAVERでもインタビューが公開されています。彼女がエイミー・ワインハウスから影響を受けていることはよく知られていますが、NAVERでそのメタファーの手法からインスピレーションを受けた人物として挙げているのは、なんとジャズシンガー/ピアニストのブロッサム・ディアリーでした。早くも1940年代からNYのスウィング・ジャズ全盛のシーンで活動を始め、1957年にジャズ界の最重要レコード会社Verve Recordsからリーダー作をリリースします。

 

 


Blossom Dearie - Hey John

 

その後、キャリア30年にもなろうという1970年代に自身のレーベルのダフォディル・レコードを設立して、ジャンルレスで独創的なアルバムを発表していきました。

1975年にリリースされた名盤の誉れ高い『From The Meticulous to the Sublime』も、ダフォディルでの第2弾アルバムとして作られたものです。彼女のオリジナリティーを示すものとして後世に残ったのはVerve期の作品ではなく、ダフォディル・レコードでのインディー活動における作品群でした。ウィスパーヴォイスの元祖などともいわれますが、決してチャーミングなだけに止まらない、ヒップさを持ち合わせた声が魅力的です。

こうしてみると、ブロッサムの辿った道のりや音楽スタイルは現在のイェリンと重なり合ってくるようだし、イェリンが惹かれたのもなんとなく分かるような気になってしまいます。

 

 

4. Hoody,Bronze "잠수함(Submarine)"

 


Hoody's Cooking Log | Hoody (후디) & Bronze (브론즈) - '잠수함 (Submarine) (Eng Ver.)' [KOR/CHN SUB]

 

Hoodyは、パク・ジェボムが社長/レーベル代表を務めるAOMG所属のシンガー。Bronzeは8 BALLTOWN所属のプロデューサー。2019年7月に永井博をアートワークに起用した”EAST SHORE”をリリースし、日本でも話題となりました。さらに今年10月9日にも、2作連続で永井博がジャケットを手がけ、YUKIKA一十三十一といった日本人アーティストがゲストで参加したアルバム『Aquarium』を発表しました(『EAST SHORE』でも日本人ではtofubeatsとの”NO.1”などで知られるG.RINAが参加しています)。

こうした背景から、どうしても20世紀後半日本のラグジュアリー・ポップへの憧憬、という文脈で語られがちなアーティストですが、Bronze本人は「Guitar Magazine」2020年1月号のインタビューで単にアナクロニスティックにそれらのサウンドや質感を求めているのではなく、現代のコンテクストで制作をしていくことを目指すと答えています。

 


「All flights are delayed」 1 HOUR LO-FI with 유키카 YUKIKA

 

もちろんこうした志向性はBronzeに特有のものではなく、例えばアルバムに参加しているYUKIKAの1stアルバム『서울 여자(Soul Lady)』Estiがプロデュースしたように、80-90年代に流行したさまざまなジャンルの楽曲が持ちえていたグルーヴと現代的な手法とを織り交ぜ、緻密に練り上げた作品にも聴いて取れるものでしょう。

さて"Submarine"ですが、当初はフディ名義での発表だったのですが『Aquarium』にちゃっかり収録されていたので?となりました… 楽曲は主張が強いながらも心地良いベースが全編にわたってうねるブギーファンク。動画は英語バージョンで、フディが朝ごはん?を作りながら歌うCooking Logというタイトルからして遊び心に溢れています。

 


Stray Kids 신메뉴 Cooking Video

 

そういえば今年はStray Kidsが6月に『GO生』をリリースする前に出た謎良ティザー、Cooking Videoというのもありました。Stray Kidについてはまた後述します…

 

 

5. MOON feat. ZION.T "밤거리(Walk in the Night)"

 


[MV] MOON _ Walk In The Night(밤거리) (Feat. Zion.T)

 
SM Entertainment傘下(2018~)のMillion Market所属。実力派揃いの事務所として知られ、MOONのほかにも同レーベル元代表MC MONG、2017年にSUGAのプロデュースによる"WINE"で音源チャート1位を獲得したSURAN(11月24日リリースのシングル"The Door"を最後に契約終了)、「SHOW ME THE MONEY777」で活躍した中型犬のようなかわいらしさを持つラッパーのCOOGIE、後述する気鋭のR&B歌手Jiselle…と枚挙に暇がありません。

また、FANXY CHILDの一員であり2019年に目ざましいフィーチャリング仕事で存在感を示していたPENOMECOも所属していましたが、現在は契約解除→盟友ZICOのKOZ Entertainmentへという話も上がっていたもののこの記事を書いている12月24日現在、正式な契約発表には至っていない状況です。そして、少し前の11月18日にはKOZがBig Hit Entertainment傘下へ…一体どうなるのか…

 

Moonに話を戻すと、今年は何といってもEXO-SCのチャート1位曲"1  Billion Views"でのフィーチャリングで大衆層にも名を広めました。去年、NAVER NOWのON FIREという企画でSZAやAriana Grandeのカバーをやってたのを聴きましたが力強い声質ながらも決してそれをパワフルに解き放っていくのではなく、高い歌唱技術で自由にトーンを操っているという印象でした。このZion.TとのSmoothなR&Bトラックでも、スキルフルでレイドバックした節回しを聴かせています。

 


APINK – 'YUMMY' Lyrics [Color Coded_Han_Rom_Eng]

 

"Walk in the night" の鍵盤のループフレーズが好きなら、B面曲含めて良曲揃いだったApinkの9枚目のミニアルバム『LOOK』収録"Yummy"のトラックにも同様のバイブスがあるのでおすすめです。これといったコーラス部分がない構成の不思議な曲ですが、1:02~と2:02~ユン・ボミのパートが強烈なアクセントになっています。

 

 

6. BVNDIT "Children"

 


BVNDIT (밴디트) - Children (MV)

 

BVNDITはMNHエンターテインメント所属の5人組グループ。同事務所にチョンハという唯一無二の偉大な先輩を持ち、2019年はデビュー曲の"Hocus Pocus"から3回目のカムバック曲"Dumb"まで、いずれも当時のチョンハの代名詞的なサウンドとなっていたトロピカルハウス~ムーンバートンジャンルを引き継いだ楽曲をリリースしました。

5人全員が歌唱スキルも声量もあるのに、このまま似たような曲調でチョンハの妹グループという看板を掲げつづけるのも厳しいのでは…となっていたのですが、2020年は2月6日にデジタルシングル"Cool"、4月20日にはアルバムの先行シングルとして"Children"を発表します。

 


BVNDIT (밴디트) - Cool MV

 

前者は初期のRed Velvetがやりそうなキャッチー&キッチュなトラップR&Bで、またMVでは身体のパーツがジェンダーレスにコラージュされていく映像が印象的でした。後者では大人になってもぎこちなく進む道のさきに母親を見るベッドルーム・チルR&B、アニメーションのみのMVと、いずれのシングルでもKPOPのアーティストとしては挑戦的なプロダクションを仕掛けています。

 

2月から4月にかけては(今にして思えば)コロナウィルスがいよいよこの先人類の生活にひたと寄り添ってくるようで、しかもそれがかなり長く続くだろう…ということがわかってきたという時期でしたが、"Children"はそんな時期にリリースされました。誰しもがLockdown Songsに支えを見出したでしょうが、私にとっては心の収まるべきちょうどよい所にこの曲が収まってくれました。

 

 

7. Crush feat. Joy of Red Velvet "자나깨나(Mayday)"

 


Crush (크러쉬) - 자나깨나 (Feat. 조이 of Red Velvet) MV

 

日本のWikipediaではAmoeba Culture所属となっていますが、昨年の記事でも触れたようにPSYのP Nationに所属。昨年12月にフルアルバム『From Midnight to Sunrise』をリリースし、それが入隊前の総まとめと思いきや2020年に入っても「愛の不時着OSTやラテンジャズに取り組んだシングル"OHIO"など精力的に活動。

10月20日には豪華デュエットEP『with her』を少女時代のテヨン、キャリア30年の大歌手イ・ソラ、90年代から韓国のアフロ・アメリカン音楽を牽引したユン・ミレ、AOMG入りが決まったことでますます優れたキャリアを残すことが約束されたイ・ハイ等を招いた決定盤。このEPの公開を見届けると、ようやく11月12日に入隊となりました。今年度はFANXY CHILDの面々が次々入隊していきます…

 


크러쉬(CRUSH) x 이하이(LEE HI) - Tip Toe [LIVE] / #OUTNOW

 

Band Wonderlustを従えてのNAVER NOW Youtubeチャンネルでのリリースライブ。0:20秒~ Crushがイ・ハイに捧げるアドリブの「ハイハイ」がめちゃ良い!

 

さて今年の作品群の中で、私のTLで最も話題となったのは5月20日homemade シリーズの序章『homemade 1』収録の"Mayday"でした。本作は、Red Velvetの大ファンを公言しているCrushにとって、待望となるメンバーとのコラボレーション。ジョイも今年1月に「Happy Toghether」という番組で、Crushのその当時最新曲だった"Alone"のカバーを披露したことがあります。

MVでは1人で無為に暮らしているCrushがテレビで友だちを「創り出す」方法を見て、それを真似てリアル飼い犬ドゥユの毛を刈って煮るとなんとジョイ子が爆誕、1人じゃないよ~♪と歌い始めるという謎ストーリーで、何度見ても新鮮に「何見せられてるんだ…」という気持ちになれるのと、ジョイ子のいつもに増してサイコな佇まいや終始デレデレのCrushが面白いです。

なお、リリースに先駆けたカウントダウンライブでは2人でわちゃわちゃリコーダーを練習してからそれを使って"Mayday"のパフォーマンスをするなど、仲睦まじさに見てられね~~~と困ってしまいました。

 

ハッピーな気持ちになるのでMVだけでも是非観てね…

 

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それにしてもJoy of Red Velvet、世界で一番良い文字列…

 

 

8. Seulgi of Red Velvet "Uncover"

 


Red Velvet - IRENE & SEULGI Episode 3 "Uncover (Sung by SEULGI)"

 

カン・スルギはSM Entertainment所属、Red Velvetのメインダンサー。おととしの記事ではZion.Tとの"Hello Tutorial"を年間の筆頭に挙げましたが、今年はRed Velvetについて書くのが辛く、心苦しい年になってしまいました。本当はアイリーンとの共同名義ユニットでのEP『Monster』から90年代R&B色が濃厚な"Diamond"を挙げようと思っていたし、アイリーンの"Nauthy"Choreography Videoでの「男の首へし折りコレオ」の撮り方も大好きだったのですが…

"Uncover"は『Monster』で音源となりましたが、以前からRed Velvetのコンサートのソロステージで披露されていた曲でした。このMVでも見られる、紙になにかを書きつけるような場面がコンサートでもパフォーマンスとして取り入れられていました(舞台ではどんな感情を示しているのか容易に判断の付かない表情をした顔が描かれた紙をびりびりと破き、演者が観ている者の”mind”をあらわにする)。内省的な歌詞に寄り添うようなオルタナティブR&Bスタイルのトラックで、スルギの声質に本当によくフィットしています。

 

前職パワハラで辞めた人間として素直にそう祈れない部分が正直あるにはあるのですが、とりあえずは2021年が彼女達にとって、5人での復活の年となりますように…

 

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"Naughty"の、男の首へし折りコレオって私が呼んでるやつ

 

それにしても Seulgi of Red Velvet、世界で一番良い文字列…

 

 

9. Jamie feat.CHANGMO "Numbers"

 


Jamie (제이미) - Numbers (Feat. 창모 (CHANGMO)) [Music Video]

 

パク・ジミンは2012年サバイバル番組「KPOPスター」での優勝、JYPエンターテインメントでペク・イェリンとのデュオ、15&としての(相対的に短かった)活動を経て、同事務所とは昨年契約解除に。今年から活動名義をJamieへ変更し、Warner Music Koreaへ移籍して新しいスタートを切っています。また、高校の同級生のチョ・スンヨン(現ソロ名義はWOODZ)や「KPOPスター」繋がりのNATHANと共に始めたM.O.L.Aというクルーに属しています。

上半期はチャン・イェウンの項でも紹介した「Good Girl」への出演で存在感を示し、二次クエストの対アイドルグループ戦でAB6IXを圧倒した"WITCH"、最終クエストではチタと組んだ"Moonlight"で勝利を手にするなど、出場するたびファイトマネーを手にしていきました(良い意味で、勝利/優勝に重きの置かれない番組ではありましたが)。

 

Jamieとしての初カムバックは下半期に持ち越され、9月3日に発表されたのが"Numbers"でした。トラックは夭折したBig Punの名曲"Still not a Player"(1998年)と酷似したフレーズを用いていますが、Jamieも90年代~00年代のディーヴァを聴いて身につけたであろう歌唱でこの大ネタを歌いこなしてます。

 


Big Pun - Still Not a Player (Official Video) ft. Joe

 

Numbersの元ネタのフレーズは0:48秒~を聴いてみてください。

 

ゲストでは2019年末から"Meteor"がチャートでロングランとなったAMBITION MUZIK所属のラッパーCHANGMOが参加していますが、あんた金とか数字の話ばかりするね、それで人の価値測ってんの?というテーマの所に「俺くらい稼ぐレディーには興味あるね」と入ってくるラップで、主役のJamieを引き立てる噛ませ犬みたいになっているのが面白いです。

Jamieはこの曲のあとにも11月11日にパク・ジェボムとの"Apollo 11"、12月10日に”5가지 Christmas”と次々にリリースがあり、先週19日にはキャリア初のコンサートをオンラインで実施。来年は名作『jiminxjamie』(2018)以来のアルバムに期待したいです。 

 

 

10. Woo feat.CIFIKA "USED TO"

 


Woo (우원재) - 'USED TO' Feat. CIFIKA (씨피카) (Color Coded Lyrics Han/Rom/Eng/가사)

 

 Wooことウ・ウォンジェはAOMG所属のラッパー。2017年に「SHOW ME THE MONEY6」で全くの無名から後述のNucksalに続くベスト3に入り、番組のほとんど最初から最後まで、「普通」の感覚を生きる人々は目を背け耳を塞ぎたくなるのではないかと思われるような、生と死への情念を吐き出す姿を見せ続けました。最近ウォンジェが口座番号をタトゥーにしていた話のツイートがバズっていましたが、彼のリリックを一度でも読めばそれが表面的なエピソードの1つとしか思えなくなるはずです。

 8月18日に初のフルアルバム『BLACK OUT』をリリースし「SHOW ME THE MONEY6」で彼を審査して事実上発掘したTiger JKとも再共演を果たしています。リードトラックの"USED TO"はMVも出ていますが、フィーチャリングしたCIFIKAのパートをオミットした別テイクのため今回は音源バージョンを挙げました。ボースティングというにはあまりに沈鬱な内容の歌詞が痛々しいですが、0:51~両唇破裂音([b])を中心とした阻害音で巧みなフロウを作っていく所など技術的にも見せ場があります。

 

CIFIKAはThird Culture Kidsというクルーに所属するエレクトロニカ/テクノの音楽家。LAに住んでいた頃Arcaに憧れ、名前を「CA」で終わらせようと思って思いついたステージネームを名乗っています。2016年にSoundcloudへの楽曲をアップロードし始めるとともに韓国へ移住、同年の韓国大衆音楽賞(Korean Music Awards、後述)にノミネートされるなど、いきなりシーンに現われたという点ではウォンジェと共通する点があるといえるかもしれません。彼との共同作業は2019年の"지금이 아니면(Now or never)"以来となります。

 

こちらは8月14日、光復節を前にCIFIKAがエクスペリメンタル・エレクトロニカ的に解釈した大韓民国の国家。ただし詞を歌うことはなく、Youtubeの動画概要欄には韓国語で「国を愛する全ての人のために」、あるいは英語で「For those who stand for liberty and freedom」と、ニュアンスの異なる二文が添えられているのみ。

 


“光復” (애국가 by CIFIKA)

 

"USED TO"で短く挟まれるCIFIKAのヴァースはひんやりとした大理石ですが、 ここでは上方から崇高なひかりが降り注ぐよう。またあるときは地の底から響く死者の呻きのよう。音楽性やスタイルの近似も含めてしばしば言及されるbjork・FKA TwigsやGrimesに加えて、Velvet Undergroundとの活動で最も知られるモデル/歌手、故Nicoの巫術性を帯びて近づきがたい峻嶮さ、他方で生の奥行きに触れていこうとする感覚を持ったような豊かさ、いずれをも兼ね備えた豊穣な歌声にただただ惹かれます。

 

 

11. Stray Kids "청사진(Blueprint)"

 


Stray Kids "청사진" Video

 

 Stray KidsはJYP Entertainmentに所属する8人組グループ。今年は『GO生』と後発リパッケージの『IN生』というひと続きのアルバムによって、音源成績のうえでも躍進の年になりました。その端緒となったのが結局はこの記事の最初の方で挙げたCooking Videoということになるのですが、当時はなんだこれ考えた人最高…?とTLも無邪気にざわついていた気がします。

11月22日にはOH MY GIRL(以下おまごる)とコンサートの日程が被って、現地開催だったら両方行くの無理だったな~と思いつつ両方楽しみました。コンサートを見ると改めて、このグループがロマンティックなモチーフをほとんど主題にしていないことに気づかされます(もちろんそう解釈することができる歌はある)。めちゃくちゃストイックですが、ホモソーシャルには陥らないところもある。

もともとの前身が3RACHAというメンバー3人(バンチャンハン・ジソンチャンビン)でのクルーであり、そもそもHIPHOPアティテュードをメンタリティの基幹として生まれたことと、そうしたアティテュードには露悪的な側面があるにもかかわらずアイドルが求められるある種の潔癖性も作用してなのか、あるいはリーダーのバンチャンのパーソナリティゆえなのか、Stray Kidsでの楽曲のディレクションにちょうどいい塩梅を生み出しているのかなーと個人的に思ったりしています。一言でいえば高潔さを感じます。

 

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色々な思い出があった1年

 

”청사진”は青写真のことで、スキズのアルバムに必ず1つは入っている「EDM寄りではない」曲枠。青白を基調とした爽やかさ全開の映像とてらいのない率直な歌詞、それと個人的にですがハン君の声のトーンが曲に合っていて、物事を前向きに推進していく力を随所で与えてくれるようなところがとても好きです。

 

 

12. Rothy feat.CHANYEOL of EXO "OCEAN VIEW"

 


[MV] Rothy(로시) _ OCEAN VIEW (Feat.CHANYEOL(찬열))

 

2017年、「バラードの皇帝」シン・スンフンの事務所Dorothy Companyから初めてデビューした歌手。ハンリム演芸芸術高等学校時代から3年にわたって指導を受けた彼の秘蔵っ子で、デビュー後は必然的に「キム秘書がなぜそうか?」「僕が見つけたシンデレラ」などドラマOSTへ忙しく参加してきました。

他方でこれまで2枚のEPを発表しており、その中ではシン・スンフンのペンに拠らないヒップホップ~R&Bにより接近した楽曲で溌剌としたヴォーカルを聴かせています。なかでも白眉はスタンダードのGrover Washington Jr. の"Just the Two of Us"進行をより現代的なR&Bに仕上げた"BEE"(2019年)で、Rothyも作曲のクレジットに名を連ねています。

 


로시 (Rothy) - BEE MV

 

2020年は目立った活動はなかったものの、8月13日に自作曲の"OCEAN VIEW"をリリース。ちょうど1ヶ月前の7月13日にEXO-SCのユニットアルバムを出したばかりの、MOONの項でも触れましたがリード曲の"1 Billion Views"がかなり良かったチャニョルがラップしています。Rothyが「(孤独を感じることなく)1人で旅する方法」を紹介していくとぼけたMVの雰囲気に合う、レイドバックしたフロウです。こういうスタイルだったらAOMGのLocoをフィーチャーしていたらなとか思わなくもないですが、この曲のリリース時期だとまだ入隊中でした…(9月12日除隊)。

"OCEAN VIEW"は普段の夏だったら典型的な夏ソングだったのでしょうが、今年はこういう状況だったわけで、同時期の7月28日に出たRavi&ハ・ソンウン"Paradise"と共に、なんか野外ロケしかも海のMVひさびさ感ある…と思った記憶があります。

 

 

13. DRIPPIN "Shine"

 


DRIPPIN(드리핀) ‘Shine’ MV

 

Woolim Entertainmentから10月28日にデビューしたばかりの7人組グループ。2019年に行われたサバイバル番組「Produce X 101」(プエク)に参加・活躍したメンバーが多いそうですが著者は番組を履修していないため、全然メンバーの名前とか知らない状態でデビューEP『Boyager』を聴いてたらめっちゃ良い曲がある!!!となって今回挙げたのがこの"Shine"です。

この曲いいなーと思って曲名で検索したらすでに詳しく紹介されている方がいらっしゃったので、ここで記事も紹介させてください。クレジットに載ってる作曲/編曲家のディスコグラフィや、melonのアルバム紹介にある「choir(クワイア、聖歌隊)」というキーワードについて書いてくださっています。

 

note.com

 

ので、楽曲に関して私が加えて書くことはほとんどないのですが(まずメンバー覚えなよという声が…)、次の項目で紹介するウリムの先輩であるLOVELYZ(ろぶりず)との関わりで、少しだけ書いてみようかと思います。

DRIPPINのデビューEPの中で"Shine"はデビューショーケースで披露された、所謂サブ活動曲の1つでした。一般的にサブ活動曲として選ばれるのは、しばらくデビュー曲で音楽番組に出たのち後続曲としてステージでパフォーマンスを行えるもの=振り付けがあるダンサブルな曲が圧倒的に多い。また新人グループを売り出していくということであればなおさら、フレッシュさをアピールする機会をより多く作ろうと考えるのが自然のように思えます。実際、音楽番組でのサブ活動曲にはいきいきとしたコレオが印象的な"Overdrive"が選ばれています。

 


[항공캠4K] 드리핀 'Overdrive' (DRIPPIN Sky Cam)│@SBS Inkigayo_2020.12.06.

 

対照的に、"Shine"はメンバーのハーモニーを聴かせることにより焦点を当てた曲です。ゴスペル風ソウル…と言うにはリズム隊が軽快に過ぎるものの、いくぶんライトな音色のフェンダーローズで弾くフレーズとクワイア風のコーラスからは明らかにそのフレーバーを聴いて取れます。そうした楽曲の特性にも関わらず、ティーザーに引き続いて11月16日にはそれなりに撮影セットも準備された、ただ歌っているだけではないミュージックビデオが用意されました。

 

ここで2014年に遡り、同じウリムのろぶりず先輩の歩んだ道を振り返ると、デビュー曲となったのはその後のグループのサウンドと世界観までも決定づけることになった、作曲チーム1peaceの手によるシンセポップ"Candy Jelly Love"でした。ですが、デビューショーケースでまず歌われたのは先行して公開されていた"어제처럼 굿나잇(Goodnight like Yesterday)"であり、音楽番組でも今でいうサブ活動曲としてショートバージョンで披露されています。

10月14日に行われたろぶりず初のオンラインコンサート「Deep Forest」を観覧しましたが、彼女達へのメッセージを掲げた世界中のファンの映像の下で歌われたのは、アンコールの定番曲となった"Goodnight like Yesterday"でした。ろぶりずはこの曲でその歴史を幕開け、それは今ではファンとお別れをするときの曲になっています。 

  


LOVELYZ - 어제처럼 굿나잇 Goodnight Like Yesterday 2017 SUMMER CONCERT ALWAYZ LOVELYZ - Sub. Español

 

私はケイがサビで歌う、「2度と会えない人たちが口にするあのさよならとは違うかもしれない」という部分が本当に好きです。

歌詞のこの部分については、12月10日に当ブログで小澤みゆきさん(@miyayuki777)主催の文芸アドベントカレンダー向けに書いた以下の記事で、4月に翻訳が出たチェ・ウニョン作家の『わたしに無害なひと』と絡めて触れています。韓国文学に興味のある方にも読んでいただけたら嬉しいです。

 

towerofivory.hatenablog.com

 

このときの記事では、「二度と会えない人たちがするあのさよなら」という歌詞は専ら個人的な関係の終わりという文脈で検討しましたが、アイドルが(特にアンコールで)このような曲を歌う場合には、必然的にアイドルとファンダムの関係性という観点が立ち上がってきます。アイドルが舞台から去るとき、あるいは物語が本当に終わるとき、ファンダムはただそこに残される。

他方、より身近な生活においても、人と人のあいだには日常的につねに別れが付きまといます。誰かといつも一緒にいるということはなく、いっときにせよ断絶が厳然としてあるし、そしていつの日か本当に、2度と会えなくなってしまう。さまざまな理由があって会えなくなったり、会わないことを選択したりしますが、最終的には死のために。アイドルを応援しその姿を見届けることは、周りの人びとと共に終わりある生を生きることの相似でもある。

 

ウリムの聖歌隊は変わらない愛情を高らかに歌う。"Shine"に心打たれた人は、聖歌隊の歌を聴くたび過去を懐かしみ、現在を噛みしめ、未来に待つ別れを想う。ろぶりずの"Goodnight Like Yesterday"がそうであるように、"Shine"はDRIPPINとファンダムとが共有していく物語の、栞のような歌になるのではないでしょうか。

 

   

14. LOVELYZ "절대, 비밀(Never, Secret)"

 


Lovelyz (러블리즈) - 절대, 비밀 (Never, Secret) (Deep Forest)

 

前項でも触れましたが2014年10月デビュー、Woolim Entertainment所属の8人組グループ。歌手活動後にバークリー音楽大学で学んだユン・サンを中心とする専属作曲チーム1pieceのバックアップを受け、優れた楽曲を次々とリリースします。しかしTWICEGFRIENDといった2015年デビュー勢に次々と追い越され、音楽番組での1位獲得は2017年5月16日の"지금, 우리(Now, we)"まで待たなければなりませんでした。

その後は、これまで確立してきたコンセプトがあるにも関わらず迷走を続けた感がありセールス的にも伸び悩み、その葛藤は2019年に出演した女性グループサバイバル?番組「Queendom」でも見て取れます。カバーステージで相手グループ(おまごる)の曲の選択に悩んだ末、ミッションで得た権利を使って他のグループの曲(Brown Eyed Girls"Sixsense")を選びます。大胆なイメージ転換を図った結果は芳しくなく、また対抗馬とみられていたおまごるが「Queendom」以降大きく飛躍したことと比較するような言説もインターネット上ではしばしば見かけました。

 


류수정의 독보적인 카리스마 Tiger Eyes 조심 🐯 | RYU SU JEONG_Tiger Eyes | 러블리즈 | Lovelyz | 수트댄스 | Suit Dance

 

その後、年少組のケイとリュ・スジョンが相次いでソロアルバムを発表します。わざわざソロを出すとなれば、それに見合った新奇さ/グループのスタイルとの差別化と、無論そのアーティストの個性を引き出せている内容が求められるでしょう。これらの点で、殊にスジョンに関しては”Tiger Eyes”で理想的なソロデビューを果たしたといえます。

 

しかしグループ活動としては1年3ヶ月の沈黙を強いられ、9月1日にようやく7thミニアルバムの『Unforgettable』でカムバック。タイトル曲はハリーポッターの記憶が失われる呪文にインスパイアされた”Obliviate”で、シックな衣装とdeep houseのトラックに、弦楽器などこれまでのろぶりずらしいエレガントな音色を加えていく楽曲という明らかに「Queendom」を経た後、を感じさせる方針転換がみられます。

そういう意味ではウリムとしても挑戦だったのですが、今までのスタイルとは違う意味でのキャッチーな路線というか、セールスに重点を置いた感はあるのかなという印象でした。契約更新が2021年なので、ドショだけながらも久々の1位獲得は良かったなと思います。

Deep Forestコンサートではこの曲と、「Queendom」でリリースされたムーンバートンのトラック"Moonlight"だけがメドレーとしてある意味独立してセットリストに入れられており、事務所としても次のリリースのコンセプトではこうした方向の楽曲へと舵を切るかどうかをかなり迷っているのではないでしょうか。

 

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マッパンではハリーポッターのコスプレ舞台を披露

 

他方、『Unforgettable』のB面曲はこれまでのろぶりずのディスコグラフィーに調和するような楽曲群が並んでいます。特に、4曲目の"Never, Secret"は完全に"Goodnight Like Yesterday"のサウンドを自己引用的にイミテートしている、姉妹のような曲です。実際、プロモーションのビハインドでもスジョンが収録曲の中で"Never, Secret"を好きな理由を話すときに、"オグンナ"="Goodnight Like Yesterday"に触れる場面があります。

 

個人的な意見ですがろぶりずの特性が最も発揮されるのは、華美で輝くばかりのシンセポップ、上物の絢爛さに反してナイーヴなメロディと歌詞をメンバーが適材適所に歌っている楽曲、だと思うのですが(なので、似てると言われてるけどどんなコンセプトも独創的にこなすし基本体育会系で陽キャなおまごるとはグループの性格がぜんぜん違うのでは?となる)、それゆえ楽曲の中でヴォーカルのライン配分がどうなっているか、という部分が最も気になります。

 


러블리즈(Lovelyz) “그 시절 우리가 사랑했던 우리(Beautiful Days)” Official MV

 

一聴してそれとわかる瑞々しいケイの歌声が不動の中心にあり、憂いを含んでいてハスキーな声質のスジョンとの王道コンビネーションが、対置し高め合う形で楽曲の本流をなしている。さらにリードヴォーカルからハイノートまでどのポジションもこなせるパク・ミョンウンが屋台骨で、とりわけ天空突き刺し型(?)のハイノートが強いベビソルオンニがいて、基本的にはその4人のヴォーカルバランスが楽曲の微妙な方向性というか、どういう刺さり方をするかを決めているのかなと思います。

前作にあたる”Beautiful Days(그 시절 우리가 사랑했던 우리、略して그우사우)"は上述したろぶりず楽曲のエッセンスが結実した金字塔だったといえますが、セールスには結びつきませんでした。他方、とりあえずは好評を得て結果を残した"Obliviate"は、コンセプトの転換はあったもののナイーブな楽曲主題という点では既定路線を外しておらず、ウリムが次の一手をどうするのかが楽しみです。契約更新年を余裕で乗り越え、永く活動してほしいグループです。

 

 

15-16. Stella Jang "Reality Blue", "Good Job"

 


[올댓뮤직 All That Music] 스텔라장 (Stella Jang) - Reality Blue

 


[올댓뮤직 All That Music] 스텔라장 (Stella Jang) - Good Job

 

GRDL Entertainment所属のシンガーソングライター。

中学時代にフランスへ留学し、高等教育機関のGrandes Écoles(バイオエンジニアリング専攻)を出てロクシタンに就職したそうですが、韓国で2013年には音源デビューしていて本格的に音楽に専念するために退職。以降、Crucial Star、Lil Boi、TakeOneと名のあるラッパーが多かったGRDLでは珍しい存在としてリリースを続けます。

 実は上述した3人とも、現在は事務所を離れています。この中では、なんといってもリルボイが先週終わった「SHOW ME THE MONEY9」のファイナルで納得の優勝を遂げたばかりで、番組のセミファイナルで披露された"Bad News Cypher vol.2 "では、TakeOneをゲストに迎え共演するシーンもありました。去年彼らがリリースした”Bad News Cypher vol.1”の続編的な位置づけでしょうか。vol.1の方はGIRIBOYがウジュピヘン(後述します)のクルーと作った"vv_2"のブーンバップなトラックを使っています。vol.2のビートは完全に1992年のDr.DreSnoop Doggのクラシック、"Deep Cover"を下敷きにしていて、リルボイのスキルフルなフロウが映えるトラックです。

 


[ENG] SMTM9 [9회] '잘난 체 해줄게' Bad News Cypher vol.2 (Feat. TakeOne) - 릴보이 @세미파이널 EP.9 201211

 

ちなみに、リルボイ自身はHalftime Recordsの看板を背負って独立したものの、レジェンダリーなデュオGeeks名義としてはGRDLに身を置いたままで、9月には後述のDeVitaをフィーチャーして久々のシングル"Heartbreake Hotel"もリリースしています。

現在、GRDLには2018年に日本のラッパーSALUとも仕事をしているJaMezz、「SHOW ME THE MONEY」常連のMckDaddy、「マイ・ディア・ミスター」などに出演した俳優のパク・ホサンを父親に持ち、「高等ラッパー2」でHAONと共に活躍したPULLIKらが所属しています。

 

完全に脱線しかけているのでステラに話を戻します。2019年に発表されたキャッチーなシングル"YOLO(You Only Live Once)"では、テーブルトップのルーパーで入力・サンプリングしながら曲を作り上げていく様子をMVや自身のYoutubeチャンネルで公開していました。

 


[Roomlive] Stella Jang (스텔라장) - YOLO with loop station

 

この年の後半、彼女の2016年の曲"COLORS"Tiktokで使われていたことからバズり、この曲も"YOLO”同様の手法で作られているためか今年1月のM Countdownに4年前の曲で(!)出演したり、過去にも幾度か出演している「ユ・ヒヨルのスケッチブック」でもサンプラーを前に"YOLO"を歌うなど、Tiktokでのバズがきっかけで思いがけず脚光を浴びることに。

そんな中、今年4月7日に初のフルアルバム『STELLA I』でカムバックします。ハミングで始まる『STELLA I』冒頭の"Go Your Way"も"YOLO", "COLORS"同様の手法で作曲されており、耳を引くオープニングになっています。タイトル曲の"Villain"もひと癖あるジャズシャンソン調です。かといって、フランス語圏の強烈な個性を持つSSW(クロ・ペルガグやレオノール・ブーランジェ)のような前衛性・実験性を持ち合わせているわけではなく、むしろフォーク、ジャズ、インディポップ、カントリー、ゴスペル、ソウルミュージックといった英米圏の音楽を消化し、韓国語でそれらを軽やかに行き来している(私の観測範囲内では)希少な人物…というふうに見えます。

 

今回挙げた2曲は甲乙付けがたく、けっきょく両方とも選びました。"Reality Blue"は現実のしんどさから一時的に離れたものの、旅から戻れば変わらないむなしい自分が居て、という普遍的で共感できるテーマを歌うフォーキー・ソウル。やるせな口笛を吹くステラの後ろでは、ペダルスティールギターの音も気だるく宙を漂っているようです。

"Good Job"も仕事でくたびれるばかりの帰り道、目を閉じながら「私へ、クソお疲れ様」と自分に労わりの言葉をかけてあげるリフレイン、生活の中からそのまま出てきたような歌で真情に満ちています。60年代のソウルシンガー達を支えたマッスルショールズのフェイム・スタジオのセッションマンのような、リズム隊の重厚ながらも必要最小限でタイトなバッキングが、重い足取りと心持ちに生命を吹き込んでくれるようで涙が出ます。

 

 

17. CODE KUNST feat. Paloalto, The Quiett "PEOPLE"

 

 

Youtubeでは音源が見つからないので、Spotifyのリンクを貼っておきます。

前述のHoodyやWooらと同様AOMGに所属する音楽プロデューサー。通称はコクン。AOMGに入る前はHYUKOHに続くアーティストしてYG傘下のHIGHGRNDレーベルに入り、同レーベルの創始者であるEPIK HIGHTABLOと共に『B4.DA.$$$』が爆売れしたころのJoey Bada$$と曲を作ったりしています。自らマイクを握ることはなく、2018年にAOMGへ移籍する以前から事務所の垣根を超えて一級のシンガー・ラッパーを迎えたトラックを世に出し続けてきました。

バラエティー的?には、「SHOW ME THE MONEY」でPaloaltoと共に審査/プロデューサー役として777と直近の9に出演しており、前者ではチームミッションで制作された"Good Day"がチャート1位に上り詰めましたし、後者でも「777」に続いて自チーム(コパルチーム)からファイナルに2候補を送り出し、番組を盛り上げました。

 

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ファイナルの日は疲れてた…?

 

4月2日リリースの『PEOPLE』は、AOMG移籍後初のフルアルバムになりました。さすがにAOMGや兄弟レーベルのH1GHR MUSICメンバーのフィーチャリングが多いものの、NucksalやC JAMM、Car the Gardenなど、これまでのアルバムでも共同作業をしてきた面子と楽曲を作り続けているという特徴もみられます。

 タイトル曲の"PEOPLE"でフィーチャリングしているのは、いずれも10年に及ぶ歴史を持つHI-LITE RECORDSとIllionaire Recordsをそれぞれ率いていたPaloaltoとThe Quiett。Paloaltoは今年アーティスト活動への専念のため同レーベルのCEOを退き、The Quiettは共同設立者であるDok2の脱退(2月)に続いてIllionaire Recordsのレーベル解散を発表するなど、それぞれ大きな動きのあった1年でした。

 

"PEOPLE"の冒頭はジャズヴォーカルをサンプリングした風のノスタルジックなトラックから始まりPaloalto、The Quiettの順に登場しますが、こうして2人のフロウを順番に聴くとその特徴はかなり対照的です。

Paloaltoは重厚な低音と安定したリズム感を一貫して聴かせていく。先述の"Good Day"でもそうですがメロディを歌うときにも滋味、深味を感じさせます。他方、The Quiettは『Millionaire Poetry』(2017)などソロの作品で覗かせるThugな雰囲気とは違った、肩の力の抜けたラップを展開しています。このフロウで吐き出される「If you show me some love / I'll show you  much more luv」というリフレインはしゃらくさくて良かったですね… 

 

 

18. Samuel Seo "운(Cloud)"

 


서사무엘 (Samuel Seo) - 운 (STUDIO LIVE with 김오키, UNITY band.) [선공개 비디오]

 

Samuel SeoCHEEZEや日本でも知名度のあるバンドSe So Neonが所属する Magic Strawberry Soundレーベル所属のソロ歌手。音源成績の反映されないアワードである「韓国大衆音楽賞」という、名前のわりにはそんなに大衆的ではない賞で毎回のようにノミネート・受賞を重ねており、2020年度(昨年分)はフルアルバム『the Misfits』R&B・ソウル部門の大賞に選ばれています。

 

 10月21日に発表された『UNITY II』は、2018年にリリースされた『UNITY』に続くシリーズ物として位置づけられますが、感覚的には前作の『The Misfit』の延長上に位置づけても違和感のない印象です。

『The Misfit』に関するインタビューで、彼は以前ドレッドヘアをCultural appropriationとして厳しく批判されたことについて触れました。それ以来、彼はアーティストとして音楽スタイルだけでなく、文化を尊重する姿勢を身につける必要性を感じたといいます。ジャズ、ソウル、R&Bなどアフリカン・アメリカン音楽の多大な影響を受けつつも、ソはネオソウル・R&B歌手といった括られ方を嫌い、韓国人アーティストとして制作をすることの意味を追求していることを公言しています。

 

『UNITY II』では、相変わらずD'Angeloを髣髴とさせるトラック("One")があったり、Roy Ayersを意識してビブラフォンをフィーチャーした"Cycle"の面白い取り組みもあり、また”Link”のような曲ではあらゆるアフリカン・アメリカン音楽を飲み込みつつ展開するコンテンポラリーなジャズシーンへの関心も窺えます。近いバイブスとしては、少し前のRobert Glasper Experimentなどが挙げられます。

 


Robert Glasper Experiment - Calls ft. Jill Scott

 

しかし、タイトルトラックの"운"ではより複雑な音楽性の交錯がみられるように思います。

まず2016年の"Hit & Run"ぶりにフリージャズ畑のサックス奏者、Kim Okiが作曲とフィーチャリングで参加し、中盤で抑制されたソロを聴かせています。

オキはジャズを足場にしつつも広範なジャンルの垣根を越えて制作し、例えば2019年の『Spirit Advance Unit』ではラッパーのJJANGYOUや前述のWooをゲストに迎えています(先述したWooの『USED TO』のMVにも出演しています)。そのアルバムによって2020年度の「韓国大衆音楽賞」では2年連続受賞のBTSを抑え、ミュージシャン・オブ・ザ・イヤーに選ばれています。そして、今年リリースのアルバム『For My Angel』では鎮魂的なタイトル曲"내 이야기는 허공으로 날아가 구름에 묻혔다."でソがフィーチャーされていて、"운"でのオキの参加はそのお返しのようなものでしょうか。

さらに、音源では韓国の伝統音楽サムルノリでも使われる打楽器チャングが不思議なファンクネスを作り出していたりもする。そしてA Tribe Called Questのマスターピース"Electric Relaxation"風のメランコリックなフレーズが、全編に渡る緊張を静かに引き締めている…といったように、ただ音楽的な雰囲気を取り入れるレベルを超えて韓国人がアフリカン・アメリカン音楽を探求していくということを体現していく、ソのスタイルがよく示された楽曲になっています。

 


A Tribe Called Quest - Electric Relaxation

 0:14秒~ 

 

 

19. Fisherman feat. Khundi Panda "Murphy"

 

 

これもYoutubeでは音源が見つからないので、Spotifyのリンクを。

FIshermanはGIRIBOYの主催するクルー、WYBH( 우주비행 (ウジュピヘン))に所属するプロデューサー/トラックメイカー。WYBHには他にCosmicboyJiwoodnopfといったDJ/プロデューサーやgeorgeKid MilliHan YohanOLNLChoiLBといった名の通ったシンガー/ラッパーが多数所属しています。GIRIBOY名義ですが、2019年にほぼWYBHクルーのコンピのようなアルバム『KGVOVC from wybh vol.1』も出しています。

 


[MV] GIRIBOY(기리보이) _ vv 2 (Feat. Kid Milli, ChoiLB(최엘비), Kim Seungmin(김승민), Hayake)

 

Fishermanは2015年に、「ギリくん、今日なにするの?」という謎の日本語モノローグで始まるGIRIBOYの"호구"をプロデュースしていますが、2017年以降3作のソロEPも発表してきています。

10月18日に2枚組アルバム『The Dragon Warrior』をリリースしますが、勇ましいタイトルとは裏腹に基本的にスローなchillout~Erectronica~lo-fi HIPHOPのあいだを行き来しつつ、半数以上を占めるインストゥルメンタルのトラックで自己の内面へと深く潜りこんでいくような内容です。ゲストのBewhYやKhundi Panda、10月から軍服務中のXXXKim Simya、Suminらの声が、その隙間を埋めていきます。いずれもフロウ巧者でどの1曲を選ぶか本当に最後の最後まで迷いましたが、時の人でもあるということでKhundi Pandaとの曲"Murphy"を選びました。

 

BewhY率いるDejavu Group所属のラッパーKhundi Pandaは、元々スキルの高さにおいても音源作品の芸術性やそのリアルネスにおいても一目置かれていた存在で、「SHOW ME THE MONEY9」ではセミファイナルでの敗退となったものの確実に番組の中心人物の1人となっていました。放送では実力者として参加者・プロデューサーを問わず畏敬される面と、インスタで自炊垢を持っているとか猫好きとかの意外な面をギャップで(制作側が)見せていたなという印象でした。

 


SMTM9 [9회] '오늘 이곳에서 난 불러' Hero (Feat. JUSTHIS, Golden) - 쿤디판다 @세미파이널 떼 EP.9 201211

 

今年初のフルアルバム『GAROSAWK』をリリースしていますが、2017-8年ころにSoundcloudでリリースしていたミクステの楽曲と基本的にアティテュードは変わらず、ラップで表現する人間であること、世間の黙殺や金が関わることで変容していくシーン、そこでの挫折による葛藤をリリカルに切り取って描いていきます。そういったどちらかといえばナード的感性を根本に持ちつつも、番組では自身のスキルに絶大な信頼を置いて中央突破していく内容のリリックを貫き、そのスタイルはセミファイナルでいまや最高のケミとなったプロデューサーのJUSTHISとゲストのGOLDENを迎えた"Hero"という名曲に結実します。

 

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ファイナル、脱落者ステージのKhundi Pandaバースに嬉しそうなJUSTHIS

 

敗れはしたものの、奇しくも"악역"=悪役という曲を準備したSwingsと、「自分が自分のヒーローになろう」という内容のラップで対峙した姿にはカタルシスを覚えました。ただ、Khundi Pandaは脱落時のコメントでこの番組で辛かったのはアーティストが簡単に消費されていくこと、自分もその対象となるかもしれないことが怖い…という話をしています。

 


[ENG] SMTM9 [10회] CREDIT (Feat. 염따, 기리보이, Zion.T) - 릴보이 @파이널 2R EP.10 201218

 

優勝したリルボイの曲"CREDIT"にある「この幕が下りて音楽が過ぎ去れば みんな去っていくだろうけど もう少しだけ残ってて」という歌詞のくだりは、番組で本人が話していたようにスタッフや出演者へ感謝として向けられたものでもあり、また同時に、ラッパーをコンテンツとして貪欲に消費しそれを自ら省みることのないリスナーと、それを招く元凶である「SHOW ME THE MONEY」の番組自体に対しても向けられた訴えと取れないでしょうか。あらためて指摘するまでもないですが、Khundi Pandaのコメントが示唆するKHIPHOPとメディアの結託が孕む問題は、アイドルというまぎれもない人間をエンターテインメントとして誇大に拡張するメディアとそれを際限なく消費するファンダムの無思慮な姿勢と、構造的には全く同じ様相を呈しています。

 

Fishermanも、実はトラックメイカーとして「SHOW ME THE MONEY9」に大きく関わっています。本戦ステージで、Fishermanと同クルーのGIRIBOYチームに属したウォンシュタインの出場曲"적외선 카메라(Infrared Camera)"で、Slomと共にトラックのクレジットに登場。

 


SMTM9 [8회] '난 사랑에 빠졌어' 적외선 카메라 - 원슈타인 @본선 EP.8 201204

 

イントロの特徴的なシンセサイザーワークを聴けばFishermanだ!となるし、『The Dragon Warrior』と通ずる音色や楽曲の内省的な主題の共通性、さらにはウォンシュタインの歌唱が映し出す内面世界がますますそれと共鳴するのが、手にとるように感じられると思います。

そして同番組の最終話では、最終候補に残ったリルボイのためにオルガンで始まる多幸感&切なさ爆発ソング"CREDIT"(先述)を再びSlomと制作し、その優勝に影ながらも大きく貢献したのでした。

 

 

20. Nucksal feat.DeVita "The Fall"

 


[ENG] 넉살 - 추락 (feat. DeVita) Official M/V

 

 NucksalはDeepflowがCEOのVMC(VisMajor Compaby)所属のラッパー。昔から長い髪がトレードマークなことから넉언니(ノクオンニ)と呼ばれています。何といっても「SHOW ME THE MONEY6」で準優勝を果たして名を上げ、ダデュ(Dynamic Duo)チームでは当時小学生だったチョ・ウチャンとのコンビでも注目されました。卓越したスキルのみならず、そのエンターテインメント性や面倒見のよさを生かして「SMTM」続編の777ではDeepflowと共に審査員/プロデューサーとして活躍、「高等ラッパー2」と続編3のメインMC、その他Dingoでの企画やバラエティ番組にも引っ張りだこの人気ラッパーとなっています。

10月にリリースされた『IQ87』は4年ぶりのフルアルバムで、Nucksalが触れたさまざまな文学作品からの随想の断片が語られているものとなっているそう。"The Fall"は人生において人びとが「墜落」していくとき、その経験をどのように認識するのかはさまざまだろうと語っています。MVの最後には、墜落を上昇に変えようというNucksal(アニメバージョン)が描かれるポジティブなエンディングで幕を下ろします。

 

フィーチャリングで登場するDeVita(デビータではなくドゥビタ)は、もともとChloe DeVita名義で前述のBronzeと同じ8 BALL TOWNに所属しており、レーベルの中心人物KIRINのプロジェクトにしばしば顔を出します。DeVitaというステージネームはミュージカルや映画でも知られるアルゼンチンのカリスマ的人物エビータ(エヴァ・ペロン)と、Devilの語をと組み合わせて造ったとのこと。

 

今年の4月にAOMGが「Who's the next AOMG?」と題した匂わせ動画?を公開し、23歳か24歳で歌が本当に上手、どこと契約するのかと思ってた…という内容から、前年にYG Entertainmentとの契約が終了していたイ・ハイではないかという憶測が流れていました。

 


DeVita (드비타) - [CRÈME] Making Film

 

しかし蓋を開けてみるとそれは知名度ではかなり劣るDeVitaで、ニューディスコ風の素晴らしいデビュー曲"Evita!"は再生数も伸び悩んでいたように思います(その後イ・ハイもAOMGとの契約を発表)。ただ歌唱の実力は匂わせ動画でコクンが言っていたように素晴らしく、"The Fall"ではYou want the rhythm without blues...という、曲の主題に示唆を投げかけるようなリフレインを聴かせています。

また、フィーチャリング仕事でもAOMGのレーベルメイトを中心に出番を増やし、特にGooseBumpsの”Somewhere”ではGRAY、フディやELOと彼のAOMG入社ウェルカムトラック?で共演しています。(GoosebumpsとGRAYのダブルシグネチャサウンドがかっこいいです!)

 

 

21. oceanfromtheblue "wish"

 


oceanfromtheblue - wish

 

oceanfromtheblueはNostalgia Music所属のシンガーソングライター。今年は3枚のEPと2枚のシングルアルバムを続々ドロップした後、11月25日にとどめのフルアルバム『Luv-fi(2020)』をリリースするというめちゃくちゃな多作ぶりを発揮しました。とはいえ本人にとっては作りまくることが身上というわけではなく、創作的意欲の爆発時期にあたっていただけのようです。

 彼は2018年に『Luv-fi(2018)』というアルバムをリリースしていて、2020のほうが”Wirye New Town(outro)”で幕を下ろすのに対して、2018のほうが"Wirye New Town(intro)"で始まります(Wirye New Town=ウィレ新都市)。時系列としては作品のリリース順とは逆になりますが、そういう意味ではエピソード0的な続編にあたります。

 

4月リリースのEP『take off』が個人的なディプレッションと向き合った作品であったのに対し、『Luv-fi(2020)』は彼の従来の作品どおりラブソングが並んでいます。その中で、"wish"は厚いストリングスアレンジが施された気品漂うトラックです。実はこの曲の原型は彼がOCEAN名義でsoundcloudを中心に活動していた2016年に既に発表されていて、アレンジも『Luv-fi2020』のバージョンよりかなりシンプルでした。皆さんはどちらが好みでしょうか?↓

 


OCEAN - WisH

 

歌詞でImma be u r ocean..と甘く語りかけるところがあるんですが、自己言及的なリリックというのはしばしばうんざりさせられるような代物だったりします。彼の場合はそういうことはなくて、伸びやかに歌うときもくどさを感じないし声の魅せかたを本当に把握して歌っているんだなと思いました。

 

 

22. Jiselle feat. Moon " 미공개곡"(unreleased song)

 


[4K 60P] 200202 Jiselle (지젤) X Moon (문) -

 

この記事の並びは最初に断ったようにランクをつけるものではありませんが、個人的な音楽体験でいえば2020年といえばこの曲だったな、と思います。JiselleはMOONと同じくMillion Marketに所属、2019年にデビューしたばかりのR&Bシンガー。SM Entertainmentの新人グループaespaの日本人メンバーGiselleとは読み方も一緒のジジェル(지젤)ですが、まったくの別人です。

3枚目のシングル"Problem"ではpH-1がフィーチャリングでついたり(8月のインスタライブでpH-1本人も優れた女性歌手としてHoodyらと共にJiselleの名前を挙げています)、ATEEZの楽曲プロデュース全般に関わるKQ EntertainmentのEDENのマンスリープロジェクトである「EDEN_STARDUST2」に参加したり、Million Marketから最近独立したChancellorのプロジェクト、"AUTOMATIC"ではBabylontwlv、BIBIそしてMOONという歌唱に実力のある顔ぶれに混じってトリで参加していたりと、頭角を現しつつある存在となっています。フレーズの端から端までめっぽう上手いMOONとキャラ立ちしまくってるBIBIの後に登場となると若干分が悪いかと思っていましたが、フディのような透明感・クールネスと新人離れした艶のある節回しの使い分けが光っています。↓はMOONがお休みの5人バージョンでのクリップ。

 


챈슬러, 베이빌론, 트웰브, 비비, 지젤 _ AUTOMATIC | 스페셜클립 | Special Cilp | CHANCELLOR, BABYLON, TWLV, BIBI, JISELLE

 

11月5日には、パク・ジェボム、イ・ハイを筆頭にめちゃくちゃ豪華なフィーチャリングを加え28人になったメガミックス、"AUTOMATIC OFFICIAL REMIX"がリリースされています。これを聴いて自分の好きなトーンの歌手を見つけるのも面白いと思いますので、ぜひ観てみてください。

 


AUTOMATIC REMIX - Various Artists With Artists Video ver.

 

 今回挙げたのは、2月2日にRolling Hallという、ソギョドンの有名なライブハウス25周年記念イベントで披露されていた曲。MCでも曲名についての言及がなく、ただ「미공개곡(未公開曲)」としているのみです。このライブの時点ではまだ持ち曲が4曲、それとこの未発表曲あわせても5曲と短いライブです。

Rolling Hallは着席でもキャパが250くらい入るそうですが、もう1月の第4週あたりから音楽番組は無観客で収録を行う事態になっていた頃です。この日はどうだったんでしょうか、普通に歓声飛びまくってるし、抜本的な感染対策が行われる前のようです。ライブを記録した別の動画では、最初の曲が終わった後のMCでJiselleが「中止になるかと思っていたところ舞台を披露できて嬉しいけど、常にマスクをちゃんと着用していただき手の消毒もなさるようお願いします…」と話しています。

一見12月現在とさして変わらない光景のように見えますが、JiselleとMOONのこの歌を聴いたとき、今まで自分が知っていたホンデの街にはもう戻れないのではないかということが、体感として解ったような気がしました。2020年2月初旬という時期を鑑みると、この映像に記録されたRollingの空気とそこで2人が歌う名前もわからない音楽には、終末後の世界の虚空をやけに感じさせるものがあります。

 

 

23. CHUNGHA "STAY TONIGHT" 


[BE ORIGINAL] CHUNG HA(청하) 'Stay Tonight' (4K)

 

MNH Entertainment所属のソロ歌手。「Produce 101」→I.O.I.での活動を経て、2017年6月に前述のNucksalをフィーチャーした"Why Don't You Know?"でデビュー。その年からMAMA(Mnet Asian Music Awards)でベストダンスパフォーマンスを受賞するなどプデュ出身組で最も幸先のいいスタートを切ると、2019年には1月2日にリリースした"벌써 12시 (Gotta go)"で音楽番組1位を次々に獲得して殻を破った感が出てきます。

さらには、アジアに出自を持つJoji・Higher Brothers・Nikiといったアーティストが集ったプラットフォーム、88 RisingのRich BrianのチルR&B"These Nights"に客演し、レーベルコンピ『Heads in the Clouds II』のリードトラックともなりました。そして今年の11月にはかねてから連発してきたアルバム先行シングルの続編として”Dream of You”発売の告知があったうえ、11月26日には上記の88 Risingとの契約まで発表されるという大躍進ぶり。大手事務所の戦略とはまったく異なるルートから世界進出の足がかりを掴んでいます。

 

 

OSTやタイアップの楽曲も含めると今年はなんと1月から12月まで毎月音源を出し、八面六臂に活躍しつづけたチョンハを最後に待っていたのはまさかのコロナ感染でした。しかし、12月9日に始まったばかりのリアリティ番組「달리는 사이(Running Girls)」では、音楽のために競走馬のように走り続けることが強迫観念となっているという自身の苦悩をさらけ出すシーンがありました。アルバムリリースのタイミングでの休止が、チョンハにとって良いきっかけとなることを願ってやみません。

 

"Stay Tonight"は、上述のアルバム先行シングル第1弾として4月27日に出ます。Deep Houseをメインとしたトラックですが、MVからして楽曲以上にチョンハとますます人数を増したダンスチームのパフォーマンスに重きを置いていることは明らかです。ヴォーギングとワックダンスの要素を織り交ぜ、チョンハ本人/ダンサーのメイクやスタイリングもゲイカルチャーを意識したものとなっており、先述したようにコロナ感染のためリリース延期となっている初のフルアルバム『Querencia』でも、この曲は世界に飛び出していくディーヴァに相応しいリードトラックとなることと思います。

 

 

24. Cherry Coke feat. Paloalto "we're dying"

 


체리콕(Cherry Coke) - we’re dying (feat. Paloalto) [LIVE] 🎤 스피커 앞에서 온몸으로 즐겨봐 | SOULBY SEL with KozyPop

 

 シンガーソングライターのCherry Cokeは2016年に本名から現在の活動名とし、Soundcloudでの活動を中心としつつ先述したSLEEQやJ'Kyunといったラッパーリリースに客演もしています。2017年にシングル『UP』でデビュー、翌年には4曲入りのEP『Blind』を出しますが、これほどまとまった量でのリリースは9月12日発売のフルアルバム『every flower you gave me』が初めてです。

全曲のコンポーズは本人が関わっていますがアレンジは全曲別々のプロデューサーが行っています。もともと彼女のソングライターとしての持ち味であるメロウなR&B色と、ハウス/テクノミュージックがいい塩梅のバランスで混在したような楽曲群が並びます。今回挙げたリード曲の"we're dying"ではDeepshowerが編曲を務めており、彼が2018年にリリースした名盤『COLORS』のラインナップに入っていても違和感のなさそうなdeep houseベースのトラックです。ちなみにこのアルバムはRemix albumが後続して出ており、Deepshowerはここでも参加していて2step/GarageのRemixを上梓しています。

 

 


Cherry Coke - we’re dying (Deepshower VIP Remix) | Official Audio

 

Cherry Cokeの歌唱は本記事で挙げてきたAOMGの面々のような抜群にスキルフルなタイプではないですが、ミステリアスで陶酔させられるような魅力があると思います。

じつは、Cherry Cokeは勝者がAOMGとの契約を手にすることのできるサバイバルプログラム「Sign Here」に出演しています。4話でラッパーCloudy Bayとのチームで挑みますが審査員15人のうち5人のサインを獲得するに留まり、審査員の1人だったNucksalには「Cloudy Bayのラップを逆に引き出せていなかった感がありました」と評されるなど実力を発揮できず敗退しています。

曲の話に戻りますが、Paloaltoのラップをこういうお洒落な四つ打ちで聴くことってほかにあまりないと思うのですが、ゆったり乗せるラップで低い声がムードにも合ってるし無敵だな~となります…なお3曲目の"hell you"では前述したKhundi Pandaも客演しています。

 

 

25. GWSN "Tweaks ~Heavy cloud but no rain"

 


GWSN (공원소녀) - Tweaks ~ Heavy cloud but no rain (Color Coded Han|Rom|Eng Lyrics/가사)

 

KIWI Media Group所属、韓日台の多国籍メンバーを擁する7人組グループ、公園少女。2019年までに発表された3枚のEPは「THE PARK IN THE NIGHT」と題されたテーマの下にリリースされ、タイトル曲の音楽的な統一性も保たれていました。公園少女はタイトル曲だけでなくB面曲クオリティの高さも定評があり、今年は4月23日に4枚目のEP『the KEYS』でどんな新しい局面へと入るのか期待していました。

 

本作も全篇優れたトラックが用意されており、なかでもタイトル曲"BAZOOKA"と本項で挙げた"Tweaks"はディープハウス・ガラージュ・エレクトロハウス等これまで公園少女が得意としてきた四つ打ちを取り入れた楽曲群の系譜を汲んでおり、前者によりポップなフレージングが見られるのに対して、後者ではずっしり重いシンセベースが印象的です。メインラッパーのエンがいつも耳をひくファニーボイスをしているのですが、この曲では全く目立たないですね…BAZOOKAも是非聴いてみてください。

 

 

26. B1A4,OH MY GIRL,ONF "너와 나의 시대(OURS)"

 


(MV)B1A4, 오마이걸(OH MY GIRL), 온앤오프 (ONF)_너와 나의 시대 (OURS)

 

ソウル特別市麻浦区望遠洞373-6にある、WM Entertainmentに所属する3グループによる「社歌」…ではなく、9月4日に行われた事務所のファミリーコンサートと同日に発表された曲です。

 JYP NationやSMTOWN LIVEなど、事務所のメンバーが一堂に会するファミリーコンサートって大きな事務所ではそれなり恒例になっているところも多いですが、中小事務所となるとそうもいかなくて。2018年12月にWM初のファミリーソング兼クリスマスソングの"Timing"が出て、その年はStarship Entertainmentも同時期にそういう曲をリリースしていたのでKぽ1ねんせいだった私は「事務所で一緒に曲やるのってけっこう恒例なんだ♪」と認識していましたが、ファミリーコンサートとなると無縁でしたし、大きい事務所だけがやるものだろうとあまり思い入れはありませんでした。

 また開催に当たってはもっと別の問題、兵役がいやでも絡んできます。WMの場合で言えば、"Timing"が出た1ヵ月後にB1A4のシヌが入隊し、ただでさえ5人から3人へと減っていたグループ全体としての活動もしばらくはできなくなります。シヌが除隊した今も、この後に同じくメンバーで92年生まれのサンドゥルと93年生まれのゴンチャン、さらには弟グループのONFの94年生まれ組も続いて兵役期間が迫っています。つまり今回のWMコンはB1A4とONF全員が揃うタイミングに何とか捻じ込んだ形での開催ということになります。

(もちろん服務中のメンバーがいなくてもファミリーコンサートは可能です。去年私が見に行ったCUBE Entertainmentの日本版コンサート、「U & CUBE FESTIVAL 2019 IN JAPAN」では、BTOBが服務中のウングァンミニョクチャンソプを除く4人でのグループステージや、ソロ曲を披露していました)。

 

 蓋を開けてみたらWMコンは本当に、心から開催されて良かったな…という内容だったのですが、なんといってもそれはTiming以来のファミリーソングとしてコンサートと同日リリースされ、その最後を締めくくった"OURS"の存在に負うところが大なのでした。"OURS"の好きな所を挙げていくときりがないので、曲終盤のWyattミミのラップについてだけ触れます。 

 


[MV] B1A4, OH MY GIRL(오마이걸), ONF(온앤오프) _ Timing(타이밍)

 

そもそも ”OURS”は、”Timing”と同様にMONOTREEファンヒョンのペンによる作品です。2人が距離を縮めるタイミングは雪降るクリスマスの今しかない!という"Timing"から少し関係が進んで、いまは横を並んで歩く「あなたと私の時代」に。そういった意味でもこれは"Timing"の正統な続編と言えそうですが、"Timing"の随所に感じられたロマンティックな要素は排され、より普遍的な人間愛を押し出しています。

 

動画の3:17~Wyattの4バースが始まり、それを継いでミミが4バースラップします。Wyattのリリックは基本的には曲全体の嬉々とした歌詞を引き継ぎ、何にも代え難い大事な人が共にいてくれることを静かに喜ぶような内容です。

それに対して、ミミは一言目で悲しい事実を突きつけます。「お互い行く道は違うんだよ」と。思えば、この曲のタイトルは「あなたと私の時代」で、「私たちの」、ではないのでした。どんなに愛しても尊敬しあっていても一心同体の1人になることなどなく、結局他者は他者であり、自分とのその境目を踏んづけていることに気づいたとき、あらゆる人間関係は幻だったかのように色あせてしまう。全員敵音頭じゃないか。すべてが幻なのだとしたら、それならこうも苦しんでまで生きている意味などないのではないか。

しかし、それに続けて「だとしても、」とミミが手を差し出します。たとえ道は違っても約束しよう、あなたの手の横には私の手。他者があることによって自己があると気づくことで、すなわち孤独を抱きしめることによって、人は自分を、そして周りの他者のことを理解していけるのかもしれない。ふと差し出された手に、この人も自分と同じように孤独と向き合って生きているのだと思いをなす。絶望と希望と、悲しみと幸せと、どちらか片方だけでは生きていけないことを、"OURS"のWyattとミミは思い出させてくれます。

 

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麻浦区望遠洞373-6、ありがとう…

 

それでは、WMそれぞれのグループの今年の曲についても簡単に触れていきます。

 

 

27. B1A4 "For BANA"  

 


B1A4 '더 뜨겁게 사랑할 여름에 만나요'(For BANA)│팬들에게 보내는 B1A4의 마음💌 돌아와줘서 고마워요 B1A4 [it's KPOP LIVE 잇츠라이브]

 

B1A4はWMコンの後、10月19日に3人体制として初めてのフルアルバム『Origine』をリリース。12月5日にはオンラインコンサート「Documentary Live」を開催するなど、弟たちの兵役にむけて慌ただしくスケジュールを消化しています。シヌの入隊前から既に制作が進められていた『Origine』は、いまやメインラッパー不在ということもありスムースで優しさを湛えた歌モノが並ぶ、円熟の1枚となっています。

 

”For BANA”はそのタイトルのとおりファンダムであるBANAへ向けた曲で、80年代風のシンセの音色に優しく包まれるソウルバラード。サンドゥルが歌う、もっと熱く愛し合える夏に会おう…というサビは、サンドゥルと、もしかするとゴンチャンも軍服務期間が明けているであろう、2022年の夏のことを指しているんでしょうか。「Documentary Live」のアンコールはこの曲で〆られたのですが、イントロからイヤイヤしていたゴンチャンが歌い出しから号泣してしまいサンドゥルに抱きつくというシーンがありました。それは歌えなくなるよね…となっていたらスタッフのサプライズミニスローガン作戦も始まり、私ももらい泣きしてしまいました。

WMのアイドルの歌唱は、万人が痺れるような圧倒的な上手さ、みたいなのではなくて16人全員がはっとするような歌の表現をするんですよね。この前、"For BANA"を聴いてたら「WMドルの歌は情緒がある」という話をきいて、なるほど、今それ以上しっくりくる言い方思い浮かばないな…情緒…となりました。

 

 

28. OH MY GIRL "살짝 설렜어(NONSTOP)"

 


[BE ORIGINAL] OH MY GIRL(오마이걸) '살짝 설렜어(Nonstop)' (4K)

 

4月27日リリース、Melonをはじめ5つの主要チャートで1位に上るなどおまごる最大のヒットとなった"살짝 설렜어(NONSTOP)" です。この曲については既に2度記事を書いており心残りもない(?ので、そちらを紹介しておきます。

 

towerofivory.hatenablog.com

 

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成功と収穫に満ちた何も言うことはない1年で、個人的にはヨントンでリリックうろ覚えのミミと"OURS"でマイクを回したのが思い出です...  活動に関して強いていうなら、前年下半期の過密スケジュールがおそらく1月のジホの一時的な休止に影響しただろうという点はやはり記憶しておくべきで、あとコロナ禍においてまで日本オリジナル曲をあれだけ続けてリリースする必要あったのかなというのはありますが…  アンコールが私の大好きな"우리 이야기(OUR STORY)"で終わるオンラインコンサートを見て、泣きながらソウル公演に行かなければ…という気持ちをますます新たにしました。オンコンの円盤かVODを早く…(↓これは去年のペンミの時のウリイヤギ)

 


190420 오마이걸 - 우리 이야기 (Our Story) Live 직캠 @ 오마이미라클 1기 팬미팅

 

 

29. ONF "오늘 뭐 할래(Good Good)"

 


[LIGHTS ON] Ep.75 '오늘 뭐 할래 (Good Good)' Self-Cam

 

2020年度のおねのぷは「Queendom」のおまごるに続いてMnetのアイドルサバイバル番組「Road to Kingdom」に出演したことと、あとはもしかしたら日々の地道なVLive活動で?トレンドに入ったりして知名度を伸ばしていきます。著者はおねのぷとVERIVERYの舞台のみ番組後に視聴しただけなので内容について触れられることはありませんが、8月10日リリースの5枚目のEP『SPIN OFF』は自身の初動売り上げ最多を記録してBugsのチャートでは1位を獲得しており、「Road to Kingdom」の影響は認めざるを得なさそうです。

 

 今年のカムバックはこの1度のみでしたがEPの内容は多彩で、レゲエとこれまでのタイトル曲でおねのぷの看板ジャンルみたいになっているフューチャーベースが合わさった"Sukhumvit Swimming"から、MKのアドリブの「おっ♪」とオートチューンでの節回しが素晴しい"Good Good"(↑動画)、2月にファンソングとして先行リリースされていたシンセポップバラードの"Message"まで良い曲が満載。さらに加えるなら、パク・ジフンが主演するWEBドラマ「恋愛革命」のOST、"Not a Sad Song"もファンヒョン節全開でEPに入っていればな…という素晴しい出来でした。

 


[MV] ONF(온앤오프) _ Not a sad song(이별 노래가 아니야) (Love Revolution(연애혁명) OST Part.1)

 

 

30. BIBI "쉬가릿(She got it)"

 


비비(BIBI)의 '쉬가릿'! 귀여운 외모에 그렇지 못한 가사...!?│쉬가릿 (She Got It) - 비비 (BIBI) [it's LIVE 잇츠라이브]

 

BIBIは、Wooの項で先述したTiger JKとユン・ミレ夫妻主催のFEEL GHOOD MUSICレーベルに所属するシンガーソングライター。

2019年SBSのオーディション番組「THE FAN」で彼らの推薦で登場して注目され、5月15日にはシングル"BINU"でデビュー。年末にはJ.Y.Parkの"Fever"に自身のレーベルを立ち上げたラッパーのSUPERBEEと共にフィーチャリングするなど実力はすぐに知れ渡り、2020年は4枚のいずれも優れたシングルを発表したほかnaflaZICO、B1A4、Crushなど畑を問わずフィーチャリングで引っ張りだこの存在となります。TWICEのミニアルバム『More & More』では、"Fever"で味をしめたらしい餅ゴリと連名でタイトル曲"More & More"の作詞を手がけたことも記憶に新しいです。

 

YoutubeHIPHOP専門チャンネルdingo freestyleとの共同名義で発表された"she got it"、タイトルは쉬가릿(cigarette)とかけたBIBI得意の言葉遊びです。そして、MVでのタイトル表記には쉬가릿(cigarette and condom)とあるのです。リリースに先駆けたdingo freestyleの動画シリーズ、「BIBIの黄ステッカー」では彼女がこの曲を作るに至った経緯に触れられており、自分と同年代の子達に向けて健全な性を楽しむにはどうしたらいいか、歌で伝えたいと話していました。

 

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徒花を咲かせているような退廃的な脆さと強烈な天衣無縫さが同居しているようなパフォーマンスで、BIBIは本当に忘れがたいシンガーです。運命は偶然を支配するだろう、だからウォッカとルーレットに己の行く先を任せる…前作"KAZINO"での姿がまさにそうでした。"she got it"でもその両面性の魅力は十分に発揮されているし、またこのテーマを歌うことで家庭環境や不十分な教育環境、とどのつまりそれらの大元となっている社会環境などの根本的原因ゆえに、あらゆる危険に曝されている女性を狡猾に利用しようとする男性社会にも銃口は向いている。betの種となり囚われている女性を血まみれになりながらも救い出す"KAZINO"と同様、彼女なりに巨大な相手と戦うとはどういうことかを示した1曲だと思います。

 

 

・おまけ 今年のカバー4曲 

 

1. Wheein "Candy" 

 


[Special] Candy (Cover by 휘인)

 

フィインはRBW Entertainment所属の4人組グループ、MAMAMOOのメンバー。ベッキョン(EXO)の5月のカムバック曲"Candy"を音程を上げてカバーしています。正直なところ、原曲は楽曲のよさにも関わらず心から楽しめないところがあり、歌詞やステージ構成からは、どうしてもシスヘテロ男性の女性に対するセクシャルなアプローチという記号を見出さざるを得なかったのでした。

しかし、この曲のフックである"Girl, I'm your Candy"というメタファーを、今やゲイアイコンとしてその名が語られることも多くなってきたMAMAMOOのフィインが歌うことで、そこに光を見出す沢山の人たちがいるはずです。わざわざGirlと男性が呼びかけ、(基本的には)異性愛者にフィットするよう描かれたリリックを鮮やかに価値転覆している例として記憶に残りました。 

 

 

2. Jeon Jiwoo "Take you down"

 


[ENG] GOOD GIRL [2회] 전지우(JEON JIWOO) - Take You Down @크루탐색전 200521 EP.2

 

チョン・ジウはここ2年ほど曲に恵まれていない男女混成4人組グループ、KARDのメンバー。KARDの個性的な4人の中でも一度見たら忘れられないカリスマ的な存在感があり、歌唱にも無二のグルーヴがあります。前述のMnetの番組「Good Girl」にも出場し、これは第2話のクルー探索戦ステージでの舞台です。

Chris Brownの10年以上前の、これも”Candy"以上に直接的でセクシャルな内容の曲をカバーしていますが、ジウ自身が番組内でダンサーを全て女性にしたことに意図があると語っています。男性が女性を歌で性的に対象化して語ることはあっても逆はあまりない、ということへのアンチテーゼとしてもとれると思います。カバーということで音源も出なかったのですが、ジウのこのステージは本当に多くの人に観てほしいです。

 

 

3. 00s "Psycho"

 


00s - Psycho (original song: Red Velvet)

 

2000年生まれアイドル達のユニット、パンパンズによるRed Velvetキャリア最良曲サイコのカバーステージですが、この日のヒョンジン君のエンディング妖精本当にすごかったよね…と思うと同時に、1人の人間を前にして、いつまでキレイカワイイカッコイイ尊い(KKKT)でいるんかな自分は…みたいになり勝手に落ち込んだりしていました。外見主義と美的価値とをどう分けて捉えたらいいんかなみたいなことは今後考えていきたいです…

 

 

4. MimPD, Yooa "eight"

 


[밈PD | MimPD] eight(에잇)_IU(아이유)cover. YOOA 유아(sha)solo /ft.걱순이

 

おまごるのミミ a.k.a MimPDのYoutubeチャンネルでユアが披露した、尊敬するIUソンベニムの新曲、"eight"のカバー。IUが自身の事務所Youtubeチャンネルでおまごるの"dolphin"をカバーしたことから"dolphin"のチャート上昇が始まり年間をとおして意味の分からない売れ方をしたり、さらにメンバーのヒョジョンスンヒがそのチャンネルにゲストとして招かれるという「IUおまごる大蜜月時代」、あるいは「IUのおまごる大フックアップキャンペーン」の気運のなかで発表されました(フックアップはHIPHOP用語で売れてない若手を曲にフィーチャーしたりして世に知らしめること)。

ろぶりずの項でスジョンのソロデビューが成功といえる要件について言及しましたが、ユアたまのデビューEP『Bon Voyage』のプロダクションや舞台構成はさらに高い水準でそれをやってのけていたと思います。以下はタイトル曲の"숲의 아이"のパフォーマンスに関して、以前書いた記事です。

 

towerofivory.hatenablog.com

 

以前の記事では触れられませんでしたが、ユアの毅然として輪郭のはっきりしたヴォーカルは、おまごるのメインダンサーというパブリックイメージにおいて比較的見過ごされてきた部分です。断絶や悲嘆、悪夢といったイメージを想起させつつも、最後には美しい記憶を抱きしめて生を肯定し、ポジティブな想いが凌駕していく"eight"のテーマは、ユアの歌唱にぴったりでした。 ちなみにIUはユアの歌だけでなく、最後に入るMimPDの「예뻐~~~」の声にも抜け目なくかわいい!と言及してくれています。キャンペーンすごい…

 

 

 

・おまけ2 まとめプレイリスト 

 

最後に、記事で言及した30曲(22のみ未発表曲のため、JiselleとMOONの両名が参加している"AUTOMATIC"に差し替えています)をまとめたSpotifyのプレイリストです。

 

2020 Kぽ(30曲)

 

 

 

それから、この記事では書けなかったけど次点で選んだ50曲のリストです!よかったらどちらも聴いてみてください~。

 

2020 KぽII(50曲)

 

 

1.  PUFF DAEHEE(KIRIN) feat.DeVita "Movin'"

2.  Baek A Yeon "Looking For Love"

3.  Risso "HIGH FIVE"

4.  JBJ95 "JASMIN"

5.  Sultan of the Disco "Waiting For Your Calling Back"

6.  oceanfromtheblue feat.BLOO "girl"

7.  ZICO "Cartoon"

8.  Apink "Yummy"

9.  Way Ched feat.Coogie, Paloalto, The Quiett "REC"

10. Jvcki Wai, Coogie, Paloalto, The Quiett, Bassagong "Fadeaway"

11. pH-1 feat. Simon Dominic, MUSHEVENOM "OKAY"

12. SUMIN, Zion.T "DIRTY LOVE"

13. Primary feat. Sam Kim, WOODZ, pH-1 "Bless You"

14. SEJEONG "SKYLINE"

15. MISO "Let it Go"

16. Alisha, FR:EDEN "Used To"

17. 015B, Wyne "#BNTK"

18. Irene & Seulgi "Diamond"

19. NCT U "From Home"

20. DPR LIVE "GELONIMO!"

21. YUKIKA "All flights are delayed"

22. GFRIEND "Labyrinth"

23. WJSN "Pantomaime"

24. Weeekly "Tag Me(@Me)"

25. LambC "December"

26. Sillica Gel "Kyo181"

27. Park Hyejin, nosaj Thing "CLOUDS"

28. Golden Child "OMG"

29. ELRIS "No Big Deal"

30. KIRIN feat. Simon Dominic, Hoody, UNITY Recordz "Fantasy"

31. YooA of OH MY GIRL "Diver"

32. EVERGLOW "UNTOUCHABLE"

33. LUCY feat. SURAN "Missing Call"

34. SOLE "haPPiness"

35. A.C.E "Baby Tonight"

36. EXID "B.L.E.S.S.E.D"

37. DKB "Tell Me Tell Me"

38. SAAY "I'm OKAY"

39. Rohann feat.HAON, CHANGMO "Never Change"

40. Aseul "2 Weeks"

41. Jeebanoff feat.SURAN "Guilty(remix)"

42. Haeil feat. Hash Swan, sokodomo "goblin"

43. Khundi Panda "Kickout Code"

44. Weki Meki "COOL"

45. CIFIKA "déjà vu"

46. OnlyOneOf "dOra maar"

47. Rohann, Rose de Penny, xs, Khundi Panda, DSEL feat. Gaeko, SOLE  "Y earned"

48. ONF "Not a sad song"

49. Stray Kids "God's Menu"

50. MCND "ICE AGE"