the TOWER of IVORY

あなたたちの耳が長いのは、神の代わりに世界の声を聞くため

One Step Two Stepsを憂う(中篇)


 今回は画像が多いくて。長くなっちゃうと読みにくいと思うので中篇とします。まず趣旨についてはこないだ書いたOne Step Two Stepsを憂う(前篇)を読んでください。3行でまとめると、
 「今度出るおまごるの日本語ver.曲の原曲の歌詞が好きなので、テイストを保ったまま日本語に移植するにはどうしたらいいかを他の日本デビュー済みヨジャグループの日本語ver.の歌詞を原曲のと見比べて落ち着く」、です。



ではさっそくヨジャチング(Gfriend)の曲を見ていきます。


①ヨチン"Rough"と"Trust"




 まずは"Rough"から、邦題は"トキヲコエテ"です。原曲のPVに日本語ver.の字幕を入れてくれている優秀な方がいましたのでMVはこちらを。


 次に、原曲の歌詞と日本語ver.のサビ部分の歌詞とを対比させ、それをそれぞれ母音で示したものです。韓国語と日本語とでは母音の発音体系が違うので、大掴みにするためにとりあえず日本語の基本5母音体系[a][i][ɯ][e][o]に沿った表記で簡略化しています(国際音声記号に準拠)。





































 ヨチンの日本デビューアルバムが出たときは、「違和感仕事しろ」的なツイートをそこそこ見かけた気がするんですが、まず"Rough"では原曲の旋律に完全に沿って日本語詞を書いています。また全ての曲で意訳を重視しており、原曲のコンセプトから外れることもなく代表曲を手堅く届けてくれた、という感じがします。

 そういう曲を音韻の面だけから見ようとすると壁に突き当たってしまうのは当然で、ためしにさわりを母音だけで歌って口形を確認してみると「いおああいおえお~ ああんおうおあえお/おんあいういあおい~ あいおいえあうえ」と母音の一致感はないし、頭韻も踏んでいなければ語尾母音の一致もないです。
 






 唯一収録されているバラード曲の"Trust"も傾向は同様のようです。






































 この曲も原曲の意訳に徹しており、音韻を強調するような部分は全体を通してみられません。でも歌詞みてもらったら分かると思うんですけど、日本語ver.の"Trust"はすごく歌いやすいバラードです。「降り注ぐ星 届きそうな夢 似通う二人を照らしてる」と、言葉のはこびも詩的ですよね。





②おまごる"Windy Day"


 次に、同様に意訳重点だったおまごるちゃんの日本語曲から"Windy Day"の歌詞を見ていきます。この間1月に行われた日本公演ツアーからshort.verの公式動画があります。短じけ~~~







































 母音で起こしてみると、日本語ver.で面白いと思ったのはサビの前半がo→aに向かっていくような、狭母音から開口音へと繋がっていく明るいイメージがある気がするのと、多用されている「あなた」の「た」に呼応するように要所にか行・た行・ざ行の破裂音・破擦音・摩擦音がばらまかれているような感じもあります。この直前のブリッジまではドラムスも入っていない、アコギが流れる優しい曲ですがサビに入った瞬間に目の前が開けて風に身を晒していくような、構成の中の盛り上がりのような部分です。さらにシンコペートしながら半音下降していったりするリズミカルなパートがあって、最後インドになるというどんどんエモくなっていく部分で、開放的な音韻が使われていてなおかつイントネーションもとても滑らかです。kぽの民の方々には説明不要ですが、この曲のMVはDigipediという優れた作品を次々と残しているMV監督が手がけており、私が今ごちゃごちゃ書いたこともMV見てくれればすべてわかります…じゃあMVの方を貼っとけって話なんですが、今回は日本語ver.のお話なので…


 これ誰に向けて書いてるんだろ・・・分からなくなってきたところで1回まとめます。今まで見てきた3曲、つまり原曲の意訳に重点が置かれている日本語ver.曲を総括すると、このタイプは「原曲の旋律のリズムから大きく外れず、その中で日本語でのイントネーションの響きが不自然にならないよう作られている」安心設計タイプということになります。 






③Red Velvet"Dumb Dumb"



 長くなってきました…そうだ、私は何かこういうことを専門的にやったこともなければ作曲も作詞もしたことのない素人なので、違ってたら教えてください。
 では、最後4曲目にRed Velvetの"Dumb Dumb"を見ます。
この曲の日本語ver.はこれまでの3曲とは違い、韓国語の音韻をめちゃくちゃ生かそうとしている作風です。





これはファンメイドの動画ですが、公式の動画に日本語ver.の音声をあてています。あとで使います。



































まずサビですが、マネキンはどちらの国でもマネキンなので同じなのですが、語尾の母音はまずまず合わせつつ、子音のレベルでも単語単語の語感を合わせようとしているのがわかります。


 어색하지(おせかじ 
 たじたじ

 アンダーライン部分でがっちり踏んでいますが原曲では直前に열까지(よるっかじ)があるので、原曲を知っている人にとって"たじたじ"のライミングは重ねがけ効果がある感じがします。


평소같이(ぴょんそがち
ぎこちない
하면 되는데 (はみょん どぇぬんで
あし どりで

 되는데と どりで、は語尾を合わせるだけではなく破裂音の子音dで始まりdで終わるところでも一致させています。凝っています。






 他の部分、ためしにAメロのバースも見てみます。



































 このパートはBaby...Play me...の部分を除く全ての小節で語尾をしっかり踏んでいます。また、冒頭部分のスルギが歌うパートを上記のMVで見ると、流れているのは日本語ver.のはずなのにスルギの口形と完全に一致しているように見えます。

 고민하지만(んはじまん
 なじかん

 헷갈리게 해(へっかるりげへ
 めまいして

 いずれも5-6モーラ踏んでいるパーフェクトライムです。고민하지만は悩むけど、といった意味なのでこの部分だけで見ると音韻をあわせるために意味がめちゃくちゃなのでは?と疑いの気持ちも湧きますが、前後を読むとちゃんと一貫して恋に悩んで眠れない!というストーリーが展開されています。

 

 내 이성적인(ね いそんちょぎん)
 れ いせいな
 
   1モーラ目歯茎鼻音[n]と歯茎はじき音[ɾ]は発音時に舌の調音点の近いファミリーライム、3モーラ目は母音が違いますが歯茎摩擦音[s]が揃っているので心地よく聞けます。あと、感覚(감각)・表情(표정)・心臓(심장)といった漢字語は日本語でもそっくりの音韻なので、その部分そのままで有効活用されています。
 

 
 最後にアイリーンのラップパートも見ていきます。




































 ラップパートはフロウが分かりやすいようにダイアグラムに1行1小節として書いていきます、数字はビートを表します(この方法はPヴァインから出てるHow to Rap?という本に詳しく載っています)。
 原曲(下)ではマイケル・ジャクソンとその曲名にメンションしながら相手と駆け引きする…みたいなストーリーですが、権利問題のためかわかりませんが日本語ver.ではマイケルのマの字も登場しません。その代わり、歌い手のキャラクターは曲に則した範囲で、しかも하지만(はじまん)→はじま(始まり)、포기 못해 나의ぽぎ もて なえ)→空気読めないよ、と
原曲の音韻を丁寧に移植しながらストーリーを再構成してくれています。




 どうでしょうか。画像みながら思いつくままオラアアアっと書いているので読みづらかったと思うんですが、めちゃくちゃDumb Dumbの歌詞は作りこまれているということは伝わったでしょうか…。
kぽグループの踏み絵ともいわれるイル活(日本活動)の一側面として、日本語ver.曲の歌詞に注目してみましたが、このように韓国語の音韻を踏襲した形で作られた日本語歌詞はファンにとってもうれしいプレゼントとなるし、もしかするとアイドルたちも曲に親しみやすかったり歌を覚えやすかったりするかもしれない。
 じゃあ、日本語ver.の曲は韓国語の音韻やイントネーションを大事にしたものを用意していけば最高!ということになるかというと、実は1つ問題があります。
 kぽのアイドルグループではそのほとんどにラップを担当するメンバーがいて、正確な割合は分かりませんが自らのペンでリリックを書くアイドルが数多くいます。クレジットに名前があれば最低1バースは書いているでしょう。では、日本語ver.が出るとなったときに彼らが書いた原曲のリリックを他の誰かが訳してそれを本人たちが歌うとすると、それは誰のリリックなのか?となるのです。日本語でラップはしてるけど、それはその人らしいスピットをしてはいないのです。
 
 "Dumb Dumb"は別によくて、なぜならメンバーが歌詞を書いてないからです。おまごるのラップはミミがリリックを書いています。ミミは好きなアーティストにNasを挙げるくらいなので、いや最近は大原櫻子あいみょん聞いてるって言ってたけど、自ら歌詞かいてスピットする人として根っこにya know my steezな部分、ラッパーとしてのアティテュードが必ずあると思うんですよね。おまごるの日本デビュー曲は"Remember Me"でしたが、両方聞かれた方はミミのラップパートの抑揚が原曲と違うことに気づいたことでしょう。そういうことってファンが気にすることではないといったら終わりなんですが、でもな~ともやもやしていたところ

























そうかーーーー、本人が日本語で書けばいいんだああああああ


ということでもないんですが…(言語習得の手間が)
ミミは日本語上手だからいつか書けるよ…




すっかり本題から反れました
後篇あるかわかりませんが、お題は「じゃあOne Step Two Stepsの歌詞はどうすればいいか」です